初心者向け:カスタマージャーニー別コンテンツKPI設定ガイド
はじめに:なぜカスタマージャーニーでコンテンツKPIを考えるのか
コンテンツマーケティングに取り組む際、「どのようなコンテンツを作れば良いのか」「作ったコンテンツが成果につながっているのか分からない」といった課題に直面することは少なくありません。特にWebマーケティング初心者の方にとって、コンテンツの成果をどのように測り、改善していくべきか、KPI(重要業績評価指標)の設定は最初のハードルとなるでしょう。
一般的なKPI設定の基本は学んだものの、いざ自分の担当するコンテンツに落とし込もうとすると、漠然とした指標しか思いつかない、という方もいらっしゃるかもしれません。そこで重要になるのが、「顧客がどのような段階を経て商品やサービスに至るのか」というカスタマージャーニーの視点です。
顧客の購買プロセスは、一つのコンテンツを読んだだけで完了するわけではありません。認知から興味・関心、比較・検討、そして購入・利用へと、段階的に進んでいきます。それぞれの段階において、顧客が求めている情報や、コンテンツに期待する役割は異なります。したがって、コンテンツの成果を測るためのKPIも、カスタマージャーニーの各フェーズに合わせて設定することが効果的です。
この記事では、コンテンツマーケティング初心者の方に向けて、カスタマージャーニーの基本的な考え方から、各フェーズで設定すべき具体的なKPIの例、そしてそのKPIをどう活用していくかについて、分かりやすく解説します。この記事を通じて、あなたのコンテンツがカスタマージャーニーのどの段階に貢献しているのかを明確にし、より効果的なKPI設定と改善につなげるためのヒントを得ていただければ幸いです。
コンテンツとカスタマージャーニーの関係性
カスタマージャーニーとは、顧客が商品やサービスを認知し、購入・利用に至るまでの一連の体験や道のりを可視化したものです。多くの場合、「認知」「興味・関心」「比較・検討」「購入・利用」「維持・再購入」といったいくつかの主要なフェーズに分けられます。
コンテンツマーケティングの役割は、このカスタマージャーニーの各段階にいる顧客に対して、適切なタイミングで、彼らの疑問や課題を解決する価値ある情報を提供することです。
例えば、
- 認知フェーズでは、まだ自社や製品を知らない潜在顧客に対して、課題提起や役立つ情報を広く提供するコンテンツ(ブログ記事、インフォグラフィックなど)。
- 興味・関心フェーズでは、課題を認識し解決策を探し始めた顧客に対して、より詳細な情報や解決のヒントを提供するコンテンツ(お役立ち資料、セミナー動画など)。
- 比較・検討フェーズでは、複数の選択肢を比較している顧客に対して、製品・サービスの具体的なメリットや他社との違いを示すコンテンツ(事例紹介、製品比較記事など)。
このように、フェーズごとにコンテンツの目的とターゲット顧客の状態が異なるため、コンテンツの成果を測るKPIも、その目的に応じて設定する必要があります。
カスタマージャーニー各フェーズにおけるコンテンツKPIの例と考え方
ここでは、一般的なカスタマージャーニーのフェーズ区分に沿って、各フェーズのコンテンツが貢献すべき目標と、それを測るためのKPIの例、そしてそのKPIを見るべき理由について解説します。
1. 認知フェーズ
- フェーズの目標: ターゲットとなる潜在顧客に自社やコンテンツの存在を知ってもらう。課題を提起し、顧客自身の課題認識を促す。
- コンテンツの例: ブログ記事(SEO対策されたもの)、インフォグラフィック、SNS投稿、啓蒙的なホワイトペーパーなど。
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見るべきKPIと理由:
- セッション数 / ユニークユーザー数 (UU数): コンテンツにどれだけの人がアクセスしたかを示す基本的な指標です。多くの人に届いているかを確認します。
- 補足: セッション数は訪問回数、UU数は訪問者数です。
- 表示回数: 広告や検索結果など、コンテンツへの入り口が表示された回数です。認知の広がりを見る指標となります。
- ソーシャルシェア数 / いいね数: コンテンツがSNSで共有されたり、評価されたりした回数です。自然な形での認知拡大に貢献しているかを示します。
- 検索順位: 特定のキーワードで検索結果の上位に表示されているかを示します。検索からの流入は代表的な認知経路の一つです。
- セッション数 / ユニークユーザー数 (UU数): コンテンツにどれだけの人がアクセスしたかを示す基本的な指標です。多くの人に届いているかを確認します。
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考え方: この段階では、まず多くの関連性の高いユーザーにコンテンツを見てもらうことが第一歩です。量的な指標が重要になります。
2. 興味・関心フェーズ
- フェーズの目標: コンテンツに興味を持った顧客が、さらに深く情報を得たり、自社の提供するソリューションに関心を持ったりする。
- コンテンツの例: 関連ブログ記事への内部リンク、詳細な解説記事、お役立ち資料ダウンロード、ウェビナー案内、メールマガジン登録フォームなど。
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見るべきKPIと理由:
- 平均滞在時間 / ページビュー数 (PV数): ユーザーがコンテンツをどれだけじっくり読んだか、関連ページをどれだけ見たかを示します。コンテンツの内容への関心度合いを推測できます。
- 直帰率: コンテンツページだけを見て他のページに移動せずにサイトを離脱したユーザーの割合です。直帰率が高い場合、コンテンツの内容が期待と異なった、または次に進むべき導線が不明確だったなどの可能性があります。
- スクロール率: ページのどの深さまで読まれたかを示す指標です。コンテンツが最後まで読まれているかを確認できます。
- 特定の内部リンククリック率: コンテンツ内に設置した関連ページへのリンクがどれだけクリックされたかを示します。興味が次の情報へと繋がっているかを確認します。
- エンゲージメント率: 動画再生率、資料ダウンロードボタンクリック率など、コンテンツ内での特定のアクション実行率です。コンテンツへの関与度を示します。
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考え方: 認知したユーザーが、コンテンツを通じてさらに深く自社や提供価値について知ろうとしているかを測る指標が中心となります。質的なエンゲージメントを見る指標が重要になります。
3. 比較・検討フェーズ
- フェーズの目標: 自社の製品・サービスが顧客の課題解決に最も適した選択肢であると判断してもらう。具体的な行動(問い合わせ、資料請求など)を促す。
- コンテンツの例: 事例紹介、お客様の声、製品・サービス詳細ページ、導入メリット解説、他社比較、FAQ、価格情報、問い合わせフォーム、デモ申込みページなど。
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見るべきKPIと理由:
- コンバージョン率 (CVR): コンテンツを経由して目標とする行動(問い合わせ、資料請求、トライアル申込など)に至ったユーザーの割合です。コンテンツが最終的な成果にどれだけ貢献しているかを直接的に測ります。
- 補足: このフェーズでは、最終的な購入だけでなく、購入手前の「マイクロコンバージョン」(例:フォーム到達、特定ページ閲覧完了)も重要なKPIとなり得ます。
- 特定のCTA (Call to Action) クリック率: 問い合わせボタン、資料請求ボタンなど、コンバージョンにつながる行動を促すボタンがどれだけクリックされたかを示します。コンテンツから次のステップへの誘導が機能しているかを確認します。
- フォーム入力完了率: 問い合わせフォームや資料請求フォームへの到達数に対して、実際に送信まで至った割合です。入力フォーム自体に問題がないかを確認する際にも役立ちます。
- コンバージョン率 (CVR): コンテンツを経由して目標とする行動(問い合わせ、資料請求、トライアル申込など)に至ったユーザーの割合です。コンテンツが最終的な成果にどれだけ貢献しているかを直接的に測ります。
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考え方: 顧客が購買に向けて具体的な行動を起こす直前の段階であるため、コンバージョンやそれに直結する行動を促せているかを測る指標が最も重要になります。
4. 購入・利用フェーズ
- フェーズの目標: 製品・サービスの購入を完了してもらう。導入後の満足度を高める。
- コンテンツの例: 製品購入ページ、利用マニュアル、活用ガイド、チュートリアル動画、サポート情報など。
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見るべきKPIと理由:
- 購入完了率 / 申込完了率: コンテンツを経由して実際に製品購入やサービス申込が完了した割合です。
- 顧客単価 (LTV): 顧客が生涯にもたらす価値。コンテンツがリピート購入やアップセルに貢献しているかを長期的に見る場合に含めることがあります。
- サポートページ閲覧数 / FAQ解決率: 利用段階での疑問解決にコンテンツが役立っているかを示します。
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考え方: このフェーズのコンテンツは、直接的な売上や、購入後の顧客体験向上に貢献します。ECサイトの商品ページなどが代表的ですが、SaaSなどでは導入後のオンボーディングコンテンツも含まれます。
5. 維持・再購入フェーズ
- フェーズの目標: 既存顧客の満足度を高め、リピート購入やサービスの継続利用を促す。ファンになってもらい、口コミや紹介を促進する。
- コンテンツの例: 活用事例、ユーザーコミュニティ、メルマガ、限定情報、お客様インタビュー、イベント案内など。
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見るべきKPIと理由:
- リピート率 / 継続率: 製品・サービスの再購入や継続利用に至った顧客の割合です。顧客との長期的な関係構築にコンテンツが貢献しているかを示します。
- 再訪問率: 既存顧客がサイトや特定のコンテンツに再度訪問した割合です。エンゲージメントの維持を示します。
- NPS (Net Promoter Score): 顧客ロイヤルティを測る指標。「他者への推奨意向」を確認します。コンテンツが顧客満足度を高め、推奨につながっているかを間接的に評価できます。
- ソーシャルメンション数 / 口コミ数: 自社や製品に関する言及がどれだけ発生しているかを示します。熱心なファンによる情報発信は、新規顧客獲得にも繋がります。
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考え方: 既存顧客との関係を深め、LTV向上やポジティブな口コミ発生に貢献するコンテンツが中心となります。エンゲージメントやロイヤルティに関連する指標が重要です。
KPI設定の実践ポイント
カスタマージャーニーの各フェーズに合わせてKPIを設定する際に、押さえておきたい実践的なポイントをいくつかご紹介します。
- KGI・KSFとの連携を意識する: コンテンツKPIは、あくまで事業全体のKGI(最終目標)を達成するためのKSF(重要成功要因)に貢献する形で設定されるべきです。例えば、KGIが「売上高○%向上」、KSFが「新規顧客獲得数○%増加」であれば、新規顧客獲得につながる比較・検討フェーズのCVRが重要なKPIとなります。
- 補足: KGIやKSFについてさらに詳しく知りたい方は、「コンテンツKPIを正しく設定するために知っておくべきKGIとKSF」の記事もご参照ください。
- 各フェーズの「次の行動」を意識する: 各フェーズのKPIは、そのフェーズにおけるコンテンツの直接的な成果を測るものですが、同時に次のフェーズへの橋渡しとなる行動を促せているかを見る指標でもあります。例えば、認知フェーズのコンテンツで直帰率が高い場合、興味・関心フェーズへと進むユーザーが減ってしまいます。
- 指標の定義と計測方法を明確にする: 同じ「セッション数」でも、ツールや設定によって定義が異なる場合があります。使用する分析ツール(Google Analyticsなど)での計測方法を正確に理解し、チーム内で定義を共有することが重要です。
- すべてのKPIを追う必要はない: 各フェーズで多数のKPI例を挙げましたが、すべてを同時に追う必要はありません。自社のビジネスモデル、現在の課題、コンテンツの目的を考慮し、最も重要と思われる少数のKPIに絞り込むことが効果的です。
- 定期的に見直しを行う: 事業状況や顧客の行動は常に変化します。一度設定したKPIも、定期的に(例えば四半期ごとなど)見直し、現状に即しているかを確認することが重要です。
まとめ:カスタマージャーニーでコンテンツ成果を解像度高く捉える
コンテンツマーケティングにおけるKPI設定は、単にアクセス数を追うだけでなく、コンテンツが事業目標に対してどのように貢献しているかを具体的に理解するために不可欠です。特にカスタマージャーニーの視点を取り入れることで、コンテンツが顧客のどの段階に影響を与え、どのような行動を促すことを目指しているのかが明確になります。
この記事で解説したように、カスタマージャーニーの各フェーズに合わせたKPIを設定し、計測・分析することで、
- 各フェーズのコンテンツが期待通りの役割を果たしているか
- 顧客はどのフェーズで離脱しやすいか
- どのフェーズの改善が最も効果的か
といった点が見えてきます。これにより、「なんとなく」ではなく、データに基づいた具体的な改善策を講じることが可能になります。
今日からぜひ、あなたの担当コンテンツがカスタマージャーニーのどのフェーズを主なターゲットとしているのかを考え、そのフェーズに合わせたKPI設定を見直してみてください。そして、設定したKPIを定期的に確認し、顧客の行動からコンテンツの課題や改善のヒントを見つけていくサイクルを回していきましょう。
もし、具体的な分析方法や改善策の導き出し方に迷うことがあれば、「コンテンツKPI分析で迷わない!改善優先度を見極める初心者ガイド」や「初心者向け:コンテンツKPIデータに基づいた効果的な改善策の考え方」といった関連の記事も参考になるはずです。
コンテンツマーケティングの成果最大化に向けて、カスタマージャーニーに基づくKPI設定をぜひ実践してみてください。